宮古島 / 離島架橋
2024/2
 国土交通省の離島振興計画フォローアップによると、日本の島の構成は次のようになっています。

 本土(北海道、本州、四国、九州、沖縄本島)以外の島はすべて離島と呼ばれています。そして、ほとんどの離島は離島振興法の対象となっていますが、沖縄の離島は、沖縄振興特別措置法の対象となっています。沖縄の宮古島と石垣島は、それぞれ5万人程の人口がありますから、離島の中ではかなり多くの人口を有しています。
 沖縄県によると、沖縄の離島は指定離島(閣総理大臣が指定した島)と呼ばれています(離島の概況|沖縄県公式ホームページ)。沖縄本島と橋等で連結されている島は沖縄本島の一部とみなされ、離島とはなっていません。ただし、宮古島と伊良部島のように、離島と離島間が橋で結ばれていても、それぞれ独立した離島と扱われます(「宮古の挑戦 エコアイランドによる地域活性化 ー離島架橋の経済学」、147ページ)。

宮古島には、3つの離島架橋
 宮古島は、3つの離島(伊良部島、来間島、池間島)と橋で結ばれています(宮古島&周辺の離島観光はこれでOK!- まっぷるトラベルガイド)。

 沖縄の離島架橋は次のとおりです(パンフレット「沖縄県の離島架橋2016」沖縄県内の離島架橋一覧など)。伊良部大橋は群を抜いて長いです。来間大橋と池間大橋も結構長いです。伊良部大橋は歩道がありません。自転車は通行できますが、減速しないで自転車のすぐ横を走る車も多いので、結構怖いです。

 離島振興法に基づく離島振興計画によって、各地域の離島架橋が加速度的に事業化され、現在では400余りとされる国内有人島の約3割が架橋で結ばれています。
超巨大プロジェクトである本四架橋(明石大橋・しまなみ海道・瀬戸大橋)も、この計画により建設されました。

離島人口は減少の一途
 1955年の人口を100とした場合、全国の人口は最近まで増え続けて来ましたが、離島の人口は一貫して減り続けています(離島振興計画フォローアップ)。離島架橋がなければ、もっと減っていたかもしれないし、離島架橋は人口対策には効果はなかったとも言えるし、評価は難しいところです。

 宮古島、池間島、来間島、伊良部島、下地島の人口は次のように推移しています。1955〜1990年の数値は、「宮古の挑戦 エコアイランドによる地域活性化 ー離島架橋の経済学」159ページのデータにより、2015年と2020年の数値は、市街地増え、旧郡部は減/市の人口の伊良部地区のデータ(下地島を含むと思われます)によりました。いずれの離島も架橋完成後も人口は減少しています。ただ、減少が緩やかになったとは言えるかもしれません。
宮古島 池間島 来間島 伊良部島 下地島
1955 58,389 2,326 566 10,815 0
1970 47,427 1,586 359 9,132 0
1990 46,358 809 175 7,900 131
1991 池間大橋完成
1994 来間大橋完成
1995 46,154 817 166 7,053 92
2000 46,377 734 189 6,815 88
2005 46,249 682 176 6,283 60
2010 46,001 648 157 5,148 57
2014 伊良部大橋完成
2015 4,769
2020 4,585

ストロー現象の懸念
 離島架橋による懸念材料としては、ストロー現象というものがあります。ストロー現象とは、次のようなものです(ストロー効果とは? - コトバンク)。
新幹線や高速道路などの交通網の整備によって、それまで地域の拠点となっていた小都市が経路上の大都市の経済圏に取り込まれ、ヒト・モノ・カネがより求心力のある大都市に吸い取られる現象
 伊良部大橋については、次のように送水管の添架や観光客の増加、リゾートホテル計画などのプラス効果の一方で、地元向けの日常品を扱う店舗は衰退していく傾向があるとの指摘もあります(離島架橋に伴う島嶼市場の経済学的考察―架橋後に失われた市場からの回帰を考える―)。これも、ミニサイズのストロー現象といえるかもしれません。
 橋梁は単なる交通インフラの構築だけではなく,通信設備や送水管などを添加する技術の複合によって,島嶼に必要な資源を及ぼす。2015年1月に開通し沖縄県下最長の橋となった伊良部大橋(本線部3,540m)は,宮古島から伊良部島へ地下水を送水するための送水管が添架された。交通の利便性とともに,農業生産の向上を目的とした技術の複合が行われているのである。有限資源である貴重な地下水を,島嶼圏全体で持続可能なものにできるのも架橋効果のひとつであるといえよう。
 架橋が実現した伊良部島では,開通1か月で宮古島経由の観光客が増加した。宮古島圏域全体での観光振興も,那覇−宮古間の航空路線が連日の満席状態となる好調ぶりをみせている。2014年度の入域観光客数は,これまでに過去最多であった2012年度を約17,000人上回る430,550人となり,架橋効果が相当に寄与した結果を導いたといえよう。さらに好調な観光需要を受け,伊良部島には2022年までに不動産企業による複数のリゾートホテルが計画されている。
 圏域全体にまでインパクトを及ぼした伊良部大橋の架橋効果ではあるが,観光を対象とした商業施設は活性化するものの,地元向けの日常品を扱う店舗は衰退していく傾向にあるという。架橋による交通網の充実で,伊良部島から宮古島に所在する大型のショッピングセンターへと生活財の調達先が変わったためだ。さらに伊良部島では自家用車をもたない高齢者が多いために,小店舗が減少していくと島内で生活財を求めることが困難になることが懸念される。
 これは,架橋後の島内の市場が観光振興で潤う一方で,社会的弱者にとっては架橋によって,むしろ利便性が低くなるという皮肉な状態を作り出してしまうこととなる。
 「宮古の挑戦 エコアイランドによる地域活性化 ー離島架橋の経済学」(166〜167ページ)は、JTB総合研究所が2015年10月に実施した伊良部町民100人に対するアンケート調査の結果を次のように紹介しています。
 架橋開通後の伊良部島内での消費は次のように減少しています。
食料品 8割→4割
外食 5割→3割
生活雑貨 5割→3割
灯油・ガソリン等 9割→6割
医療サービス 4割→2割
居酒屋等 8割→6割
 島外での消費が増えた理由についての回答は、次のようになっています。
価格の安さ 74.8%
商品の品ぞろえが良い 71%
1か所に数種類の店舗が集まっていて便利 51.9%
いくつかの店舗から行きたい店を選択できる 49.6%
 そして、「伊良部大橋を渡ることが目的とする観光客が全体の7割以上で、……観光客が増えたものの、観光収入は伊良部島ではなく宮古島に落ちている」(168〜169ページ)ということです。
 伊良部島の住宅街から、イオンタウン宮古南ショッピングセンターやサンエー ショッピングタウンまでは、車で20分以上かかります。それでも、売り場は圧倒的に広く品揃えも豊富ですから、ある程度お客が吸い取られるのも、仕方がないかなと思います。問題は、車を持たない買物弱者をいかに支援するかにあります。