宮古島
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下地島空港
下地島空港区域は次のようになっています(下地島空港及び周辺用地の利活用事業 提案募集要項)。 下地島の面積が9.68平方キロメートルですから、島全体の37%を占めています。 次のように、滑走路が3000メートルあるのは、沖縄県下では那覇空港と下地島空港だけです(下地島空港の概要|沖縄県公式ホームページ)。大型旅客機の離着陸訓練にも使えます。 下地島空港の概要によると、下地島空港は、1973年に民間ジェット機のパイロット訓練飛行場(非公共用飛行場)として設置され、1979年に公共用飛行場に設置替えされています。1980年から本格的な訓練が実施され、現在も訓練は続いていますが、「JALは2010年を最後に、ANAも2015年に訓練所を閉鎖した」(上質のリゾート・エアポートに変身 下地島空港 | AIRLINE web -月刊エアライン×航空旅行-)ことにより、次のように着陸回数は大幅に減少しています。なお、現在の訓練のほとんどは、実機ではなくシミュレータを使っているそうです(あらゆる場面を再現してフライトの 安全を支える! - ANA)。 1980年から、那覇定期便が運航していましたが、1994年に運休しています。 2019年に、25年ぶりに定期便の運航が再開しました。那覇便と本土の空港からの直行定期便、香港からの国際便が運航を始めました。コロナの影響で国際便は翌年に運休しましたが、2021年度以降、国内線の乗客数は急増しています。 伊良部大橋開通で再開に目途 下地島空港の定期便運航再開を可能にしたのが、伊良部大橋の開通です。 伊良部大橋は、無料で通行できる日本最長3540mの橋で、2015年1月に開通しています。伊良部大橋の開通が話題を呼んで、観光客が増え、ホテル建設ラッシュのきっかけともなりましたが、下地島空港の利便性アップにも大きく貢献しました。 伊良部大橋の開通前は、下地島空港の利用客が、平良市街に行くには、車で連絡船乗り場へ移動し、連絡船で宮古島に向かい、到着後さらに車に乗り換える必要がありました。それが、伊良部大橋の開通により、下地島空港からヒルトン沖縄宮古島リゾートまで車で18分と大幅に短縮され便利になりました。 県の一般会計から4億円補填 前述のように、2014年度から訓練飛行は激減しています。空港の維持管理費については、操縦練習使用料で賄っていましたが、必然的に大幅赤字となります。 そこで、下地島空港の廃港も議論されましたが(下地、宮古空港いずれか閉鎖案/第2回下地島利活用委員会)、2014年に当時の仲井真弘多知事の判断で、維持管理費は県予算で補填し、下地島空港を存続させることになりました(下地島空港 県予算投入し存続 へ)。2023年度は、県の一般会計から不足分4億円ほどを補填しています(下地島空港特別会計財政の中期見通しについて)。 ところで、沖縄県が管理している11の地方空港は、いずれも赤字です。2021年度の赤字総額は、およそ14億円となっています。 有効利用へアイデア募集 下地島空港を訓練飛行場としてのみ存続させるとするなら、ほとんど需要を見込めない、民間ジェット機のパイロット養成に、巨額の税金を注ぎ続けることになってしまいます。 そこで、沖縄県では、2014年度から下地島空港と周辺用地の有効利用について民間からアイデアを募りました。範囲は、「空港及び航空関連ゾーン」と「観光リゾート・コミュニティゾーン(保安林区域は除く)」の県有地です。周辺用地については、県有地が約304ha(約53%)、市有地が約258ha(45%)と、県有地と市有地で大半を占めています(下地島空港及び周辺用地の利活用事業 提案募集要項)。下地島全体では、県有地が4分の3、市有地が4分の1を占めていることになります。国有地と私有地は、ほんのわずかです。 その結果、第1期と第2期事業については、次のように活用事業者を選定しています(下地島空港及び周辺用地の利活用>【事業概要】下地島空港及び周辺用地の利活用について)。 第3期事業としては、次の7事業が候補として選定されています(下地島空港及び周辺用地の利活用事業(第3期)に係る候補事業の選定について)。シギラリゾートを運営している南西楽園リゾートは、下地島でもリゾート開発を計画しているようです。 FSO(北谷町、玉那覇尚也社長)は、第1期事業として、2019年にパイロット養成訓練をスタートさせています(3人が夢に向け第一歩/FSOパイロット養成)。 三菱地所の幹部は第1期事業について、2017年に次のように話しています(三菱地所、開業5カ月延期/下地島空港の利活用)。
そんな中で、LCC、国際線、プライベートジェットによる下地島空港活性化、それと連動して、トゥリバー地区へのヒルトン誘致によるリゾート開発という、三菱地所のプランは、これらの懸案を一挙に解決する願ってもない話だったといえます。 おしゃれなターミナル 2019年3月に、みやこ下地島空港ターミナルが開業し、ジェットスターが成田ー下地島の定期便の運航を始めました。 ターミナルは、三菱地所が所有し、下地島エアポートマネジメント株式会社(株主は三菱地所、國場組、双日)が運営しています。ターミナルには、国際線エリアがあり、税関、出入国手続き、検疫審査が行えます(みやこ下地島空港ターミナル>)。 レストラン、喫茶、バーと池や庭が整備された、おしゃれなターミナルでは、出発まで、ゆっくりとくつろげます。このエリアが利用できるのは、出発便の保安検査を済ませた後だけです。なお、到着、出発いずれにおいても、ターミナル使用料として税込550円が航空券購入時に徴収されます(旅客ターミナル使用料)。 スカイマークが救いの神 下地島空港は、ジェットスターの関空ー下地島便、香港エクスプレスの香港ー下地島便も始まり、順調に始動し始めましたが、2020年初のコロナ感染拡大で出鼻をくじかれます。結局、ジェットスターの関空ー下地島便は廃止となり、香港エクスプレスの香港ー下地島便は2024年4月現在も運休しています。ジェットスターの成田ー下地島便だけは、夏期のみの運航を続けています。 まさに、下地島空港は風前の灯状態になりますが、そんな中で、スカイマークが2020年10月に、羽田ー下地島便、神戸ー下地島便、那覇ー下地島2便の通期運航を始めます(スカイマーク、本日2020年10月25日より下地島空港に乗り入れ 羽田・神戸・那覇の3路線を開設)。その結果、2020年度はコロナ禍にもかかわらず、前年度を上回る乗降客数を記録します。まさに、スカイマークが救いの神といえそうです。 2023年度の利用者数は開業以来最多の約42万人となる見通しです(下地島空港、利用者は最多42万人見通し 23年度 開業5年 宮古・沖縄 - 琉球新報デジタル)。 搭乗率は7割以上か 下地島空港で運航している旅客機の座席数は、「スカイマークで運航している機種は、全てボーイング737−800型機で…177席」(【国内線】搭乗予定便の運航機種や座席の配置(シートマップ)は、どこで確認することができますか?)、「ジェットスターが運用しているメインの航空機は…エアバス社のA320で…180席」(ジェットスターの座席の種類と料金について解説!特徴やおすすめの席は? | 格安航空券モールコラム)ということです。 下地島空港の定期便は、スカイマーク4路線5便、ジェットスター1路線1便で、スカイマーク福岡便は7、8月のみ、ジェットスターは夏期のみ運航しています。以上から、下地島空港発着の定期便の年間座席総数を推測すると次のようになります。 この推測値によると、2023年度の下地島空港発着の定期便の搭乗率は7割程度ということになります。ただし、運航日数は推測にすぎませんし、台風等による欠航もあります。
差は40万人に縮まる 下地島空港と宮古空港と石垣空港の最近の乗降客数は次のようになっています。
2019年の石垣空港の乗降客数は257万人でした(石垣空港ターミナル株式会社 会社紹介資料)。2013年に空港が移転してから乗降客が急増しています。 石垣空港は、もともと市街地の近くにありました。1979年に滑走路1500メートルの空港として開港しました。しかし、短い滑走路で離陸するには重量に制限があり、那覇空港や宮古空港での途中給油が必要でした。また、空港周辺で市街化が進み騒音が問題となってきたことから、2013年に滑走路2000メートルの新空港が開港しました(新石垣空港の整備 : 沖縄政策 - 内閣府)。旧空港は廃止されています。 一方、宮古空港は1943年に海軍飛行場として建設され、1956年に民間機の定期運航が始まり、その後滑走路を2000メートルに拡張し1983年に供用を始めています(宮古空港 - 沖縄県)。 空港整備では、宮古島の方が先行していますが、観光開発は石垣島が先行し、特に空港が移転してから差が広がり、一時は乗降客に100万人ほどの差が付いていました。しかし、2015年に伊良部大橋が開通してから宮古島の観光客が増え始め、コロナ前の2019年には、差は80万人近くに縮まりました。石垣空港の乗降客数がコロナ前の水準に回復したとしても、下地島空港定期便の本格稼働により、差は40万人ほどに縮まることになります。 下地島空港では、4月21日にビジネスジェット専用のターミナルが開業しました。一般利用客とは別に税関や出入国の手続きが出来る専用施設を備えられ、料金は国際線で2時間25万円です(下地島空港にビジネスジェット専用のターミナルが開業)。また、下地島空港へは、韓国のジンエアーが5月29日から、ソウルから週5便の定期運航を始めます。4年3カ月ぶりの国際線再開です(下地島空港、国際線4年3カ月ぶり再開 ジンエアー新路線、5/29からソウル)。 3000mも必要なのか 2020年8月に、防衛省や自民党国防議員連盟関係者の間で、自衛隊が下地島空港を使えるようにすべきだという声が上がりました。その理由は、次の図が示すように「18空港は2000メートル以下の滑走路のため、戦闘機、哨戒機、早期警戒機が離着陸できない」から、下地島空港を使うしかないということにあります(南西諸島防衛、空港足りぬ…9割が戦闘機「×」 下地島は県が認めず )。 ネット上では「ジェット戦闘機や貨物を満載した輸送機には、滑走路の全長は3000mほどが必要」という話が、2023年2月に掲載されています(沖縄防衛利用で揺れる「下地島空港」 軍用機も発着可な宮古空港を差し置き 国が使いたいワケ)。しかし、本当に3000mも必要なのでしょうか。 旅客機と自衛隊機の重量を比較すると次のようになります( 機材の歴史 詳細 | ANAグループ企業情報、 航空総隊主要装備、 F-2|航空自衛隊について、 航空自衛隊入間基地にC2輸送機配備か)。エアバスA380は、大きすぎて国内では成田と関空と中部ぐらいでしか発着できません。座席数200以下の小型旅客機なら滑走路2000メートル程度の宮古空港や石垣空港でも発着できます。戦闘機の重量は30トン以下なので滑走路2000メートル程度でも離着できるものと思われます。輸送機C2は、荷物を満載すると120トンになりますが、滑走路2000メートルの入間基地に配備されています(航空自衛隊C2輸送機が飛行中に窓開き新潟空港に緊急着陸)。
ロシア国営メディア「Sputnik 日本」は、2021年11月の記事で、下地島空港の軍用機拠点化について、次のように述べています( 沖縄県の民間空港は尖閣防衛に適しているのか?)。
航空自衛隊は「軍用機の離発着には2200〜2400メートルの滑走路が必要」としているようですが、それは戦闘機が常駐する基地として使う場合であって、安全に離着陸するだけなら2000mで十分で、緊急時には「非常に短く」ても離着陸することはあり得るということだと思われます。 「戦闘機には3000mが必要」というのは、「下地島空港は軍用機基地として使うべき」という結論を導き出すために、やや誇張して表現されているのではないかと思われます。 米軍は訓練での利用を試みる 下地島空港の利用は米軍も試みています。 海兵隊が2023年1月31日に下地島空港と普天間基地との間をCH53とUH1輸送ヘリで往復する訓練計画を立て、13日に下地島空港の使用を県に届け出ました。県は使用自粛を求め、海兵隊は計画を取り止めました(米海兵隊が下地島空港使用を届け出、【深掘り】下地島での訓練通告 わずか1日で方針転換 「米軍、地元の反応に驚きか」)。玉城知事は「屋良覚書と西銘確認書の趣旨に基づき、利用はあくまでも民間航空機に限る」という従来の県方針を改めて説明しました(玉城知事、下地島空港「あくまでも民間機に限る」 軍事利用認めぬ従来方針を強調)。 琉球政府の屋良朝苗主席(当時)は、飛行場建設が始まる前年の1971年に国と「屋良覚書」を交わし、民間機以外は同空港を使用しないことを確認しています。 さらに、本土復帰後の1979年には当時の西銘順治知事も国と「西銘確認書」を交わし、人命救助などのやむを得ない事情を除き民間機の使用に限定することで合意しています(【屋良覚書とは】下地島空港は「民間機限定」 国と沖縄側で確認、復帰後も「確認書」 米軍にも順守求める )。米軍は今回の訓練の想定を「人道支援・災害救援」と説明していました(米海兵隊が下地島空港使用を届け出)。 2004年2月には、米軍機は、日米地位協定を盾に下地島空港での給油のために着陸・使用を強行しています。その以前にも給油目的での使用を繰り返しています(下地島空港を帰途でも利用 米海兵隊が連絡)。 屋良覚書と西銘確認書は、琉球政府や沖縄県と日本政府との約束であって、米軍を拘束できませんし、利用を強行されれば実力で阻止することはできません。 今回は訓練を中止しましたが、下地島空港を軍事使用しようという米軍の意図は変わらないものと思われます。 自衛隊誘致決議は白紙撤回 下地島空港の軍事利用の声は地元からも出でています。 2001年4月に伊良部町議会では、「自衛隊訓練機の誘致要請」を全会一致で可決しています。これについて、当時の稲峰知事は「今後いろいろな角度から慎重に検討しなければならない」と述べるにとどめています(平成13年(2001年) 第 3回 沖縄県議会(定例会))。 2005年3月16日には、伊良部町議会で「下地島空港に自衛隊駐屯を要請する議案の採決を求める緊急動議」が、賛成9、反対8の僅差で可決されました(住民の力で白紙撤回を勝ち取る)。 これに対し、3月24日の説明会に、町民の約半数に当たる3500人(主催者発表)が集まり、自衛隊誘致決議の白紙撤回などを求めます。その結果、伊良部町議会で 「自衛隊の訓練および駐屯に反対する決議」を賛成16、反対1で可決、16日に決議した自衛隊誘致は事実上無効となりました(自衛隊誘致反対を決議/伊良部町議会・合併も賛成に)。 一部農家から有効利用事業に反発の声 下地島空港の軍事利用の動きに対抗するように、空港と周辺用地の有効利用事業が進んでいますが、第3期事業を巡り、地元の一部農家から反発の声が上がっています(【深掘り】下地島空港周辺の耕作地、明け渡しに農家困惑…50年前の確認書とは - 琉球新報デジタル)。 下地島の南東部のかなりの部分は農地として利用されています。 そして、農地の多くは「観光リゾート・コミュニティゾーン」となっています(下地島空港及び周辺用地の利活用事業 提案募集要項)。 このエリアは、シギラリゾートを運営している南西楽園リゾートが、ゴルフ場、ホテル、ヴィラなどの建設を計画しています。 空港周辺の土地は、1971年に当時の琉球政府が下地島地主会から買い取った際に「琉球政府(県)が使用するまで無償で耕作を認める、耕作中および明け渡しにおける各補償は行わない」という内容の確認書を交わしています。 農業的利用ゾーンの85haの農地は、市が県から購入して農家に有償で貸し出していますが、それ以外の農地は県が明け渡しを求めています。 明け渡し期限は、1年延長して25年3月末までとなっていますが、県と耕作者の話し合いは、平行線をたどっています(明け渡し期限1年延長/耕作者「納得できない」)。 |